VOL.05 — 2026年3月号

Japan–Africa Entertainment Business Council Monthly Newsletter

March 2026

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エディターズ・コラム

ナイジェリアにおける食の新潮流 ― 高級フュージョンからナイジャ・メックスまで

文:品田諭志

ナイジェリア最大の商業都市ラゴスには、実に幅広いジャンルのレストランが存在しています。インド料理、中華、タイ料理、フレンチ、レバノン料理、ステーキハウスといった定番に加え、(あまりおいしくない)寿司ロールやジャマイカ料理、さらにはポリネシア料理まで楽しむことができます。

その一方で、ナイジェリア人のナイジェリア料理へのこだわりは非常に根強く、パーム油とペペ(唐辛子)をたっぷり使った辛くて赤茶色い料理を食べずして、ナイジェリアの一こうした中、他の文化領域ではナイジェリア映画や音楽がグローバル市場へ広く浸透し始めており、海外アーティストとのコラボレーションや世界ツアー、さらにはインドのボリウッド映画とナイジェリアのノリウッドによる共同制作など、ハイブリッド化とグローバル化が進展しています。しかし食の分野だけは、なおナイジェリア独自の厚い殻の中に取り残されているような感覚が、著者には強くありました。

しかし最近では、食の分野においても、その殻を打ち破って新ジャンルを開拓する人たちが出てきています。

①シェフ Michael Elegbede

Michael Elegbede氏は、3代続くナイジェリアの料理人の家系に生まれ、米国で研鑽を積んだ後、ニューヨークのミシュラン三つ星レストランでも活躍し、2016年にナイジェリアへ帰国しました。帰国後は、ナイジェリア各地を巡りながら土地ごとの伝統料理を探求し、その成果をもとに、2019年にレストラン「Itan」をオープンしました。Itanとは現地ヨルバ語で「物語」や「歴史」を意味します。そこでは、ナイジェリアの伝統料理をファインダイニングと組み合わせた手法で再構築し、テイスティング形式でのコースメニューを提供しています。また、Michael氏は自身のレストラン経営にとどまらず、ナイジェリア人シェフの育成にも力を注いでおり、Itanから独立して活躍する新世代のシェフたちも生まれています。

その代表的な存在の一人が、女性シェフの Moyosore Oluwa Odunfa-Akinbo 氏です。彼女は、マンションの一角で完全予約制レストラン「Atije」を運営しており、洗練されたモダン・ナイジェリア料理のコースを、ワインとのペアリングとともに提供しています。

今回、Michael氏はニューヨークで新たなレストランを開業するため渡米することとなり、ラゴスでの最終日に親しい友人たちを招いたディナーパーティーを開催しました。参加費は1人250米ドルで、私にとってはナイジェリアで経験した食事の中でも過去最高額のものでした。

Michael氏の料理には、彼の多文化的な経験が結晶のように凝縮され、ナイジェリアの伝統料理を土台とした創作の中に見事に統合されています。その豊かな感性は、料理を口にした瞬間、食べる側にもはっきりと伝わってきます。

彼の料理を味わうと、幾重にも重なった風味の中から、それぞれの要素が順番に立ち上がってくるような感覚を覚えます。同時に、それらが味覚として届くまでのわずかな時間差も感じられます。具体的には、料理を口に入れると、ナイジェリア特有のスパイスや香草、うまみが少しずつ異なるタイミングで広がっていきます。最初の一口では、その風味の重なりに驚かされますが、二口目からは全体の調和に引き込まれ、ただ夢中で食べてしまうのです。

Michael氏はディナーパーティーに使用していたラゴスのマンションを今後、"Chef in Residence"という形で弟子たちが修行し料理を提供する場として運営していく予定で、彼らの活躍にも目が離せません。

②タコレディー Uzo

自らを Taco Lady と名乗り、いつもメッセージは"¡Hola!"と送ってくる Uzo ことUzoamaka Umeh。常に笑顔がこぼれている彼女はカリフォルニア育ちで、今日もナイジェリアの太陽の下、店先のテラス、キッチン、イベント、そこかしこで走り回っています。

カリフォルニアでの大学時代、Uzoは勉強よりもタコス屋のバイトに明け暮れ、本場TexMexのタコスを極めました。そして大学卒業後はそのままアメリカのファーストフードチェーンに就職し、店舗拡大に尽力しました。その後、ナイジェリアに戻って一旦は現地の大手金融期間に就職するも、自分の原点はやっぱりタコスとホスピタリティ産業だと気づき、2017年にラゴスでタコス店「El Padrino」を開業しました。

当時、ナイジェリアではまだタコスは外国人駐在員が集まるクラブ兼メキシカンのお店くらいでしか提供されておらず、現地ではほとんど普及していませんでした。

Uzoは自身のタコスを、Tex-Mexならぬ「Naija Mex(ナイジャ・メックス)」と呼んでいます。ナイジェリアで親しまれているヤギ肉を使ったタコスは絶品で、ナイジェリア産のコーンから作る手作りトルティーヤとも相性がよく、ナイジェリアのスパイスが効いた味わいは、まさにナイジェリアとメキシコの幸福なフュージョンといえます。

El Padrinoはいまや引っ張りだこで、毎週火曜日の"Taco Tuesday"には人気レストランでポップアップを展開し、ラゴスでクールなイベントが開かれると、Uzoの姿と El Padrino のタコスを頬張る人々を見かけることが珍しくありません。

El Padrinoは、ナイジェリアのポップカルチャーと食を融合させる形で、新しいトレンドを象徴するアイコンのような存在になりつつあります。

以上、シェフMichaelと"Taco Lady"Uzoの活躍をご紹介しました。いまやロンドンでも、ChishuruやAkokoのようにミシュランの星を獲得するアフリカ料理レストランが登場しています。世界とアフリカが交わり、新しいトレンドが生まれていく大きなうねりの中に、ナイジェリア料理もまた確かに足を踏み入れ始めています。都内のカフェでも、気づけばアフロビーツが流れていることが珍しくなくなった今、日本にナイジェリアの高級フュージョンレストランが誕生する日も、そう遠くないのではないと信じています!

NEWS SUMMARY

アフリカのストリーミングプラットフォーム、Showmaxがサービス終了へ

文:成田葵

ニュースの要点

2026年3月、南アフリカの総合エンタメ企業MultiChoiceを保有するフランス大手メディア企業Canal +は、Multichoiceが保有してきたShowmaxのサービスの段階的終了を発表しました。

サービス終了の理由は、収益の改善が見られなかった事です。Showmaxは2015年にローンチされ、会員面では、外部報道では一時、Showmaxは2023年11月時点でアフリカ約210万人規模に達し、Netflixを上回ったとも報じられていました。Canal +によるMultichoiceの買収により、Canal +はShowmaxにも大きくテコ入れをし、2024年には大きくリブランディングを発表していました。しかし、Showmaxの2023~2025年累計売上は約2億ドル(約300億円)に対し、営業損失は約5.2億ドル(約780億円)に達しておりました。

ニュースの意義

Canal +は何もしていなかったわけではありません。アフリカオリジナルとしての自社のカタログも2024年59タイトルから、2025年は82タイトルにまで増加もしました。しかし、このようにコンテンツに大量に投資したにも関わらず、それを大幅なサブスクライバーの増加と継続課金と黒字化に結びつける難しさが最後まで解消されなかった、ということです。

Canal +もShowmaxの失敗理由を高いデータ料金、ナイジェリアのような市場でのマクロ悪化、想定以上の解約率、そして初期の流通提携の不振が成長未達の背景と挙げています。要するに、見たい人はいる一方で、安く、長く、継続して払ってもらうまでのコストが高すぎた、ということです。

このニュースの本質は、Showmax単体の失敗というより、アフリカ市場では、一般的なサブスクリプションモデルがワークしない、という点が改めて可視化されたことにあります。アフリカでは動画需要そのものは強く、ローカルコンテンツやスポーツへの関心も高い一方で、データ料金、決済、為替、景気変動、解約率といった周辺条件が、先進国型のNetflix的な勝ち筋を成立しにくくしています。Showmaxは一時的に市場シェアや加入者を伸ばせても、その成長を利益に変える前にコスト負担が先に膨らんだ結果サービス終了になりました。

Canal+はこれでアフリカを諦めた訳ではありません。MultiChoice再建に向けて1億ユーロ規模のターンアラウンド計画を打ち出し、アフリカ市場で1,000人超の営業人員を増員する方針を示しました。Canal+は同時に、自社の大規模ストリーミング基盤を展開していく方針も示しています。Multichoiceはアフリカに引き続き投資は続ける予定のため、今後の戦略に要注目です。

Next Narrative Africa Fundが発足。アフリカのコンテンツに$50M投資へ

ニュースの要点

約1年半前の2024年9月、Next Narrative Africa Fund(NNAF)は、アフリカおよびアフリカ系ディアスポラの映像コンテンツを対象とする新たな投資ファンドとして立ち上がりました。その後、順次具体像が明らかになっており、現時点では総額5,000万ドル規模のファンドとして整理されています。内訳は、4,000万ドルの商業エクイティ資金と、1,000万ドルの非営利ベンチャースタジオです。投資対象は主に長編映画やエピソード作品で、1作品あたり100万~500万ドル超規模を想定し、NNAFの投資額は総予算の最大20%程度を上限とする方針です。

このファンドの特徴は、単に資金を供給するだけでなく、アフリカ発コンテンツを「投資可能なアセット」として育てる仕組みを持っている点にあります。2026年2月にはParrot Analyticsとの提携を発表し、アフリカ発作品のグローバル需要をデータで検証しながら、企画開発と投資判断を行う体制を整えました。NNAFはこの提携を通じて、アフリカのコンテンツ市場を"脱リスク化"し、産業として育てていく方針を明確にしています。

そして2026年3月、NNAFは2,000件超の応募の中から選ばれた初回の開発案件9本を正式発表しました。選出案件には、Trevor Noahが関与する南アフリカ映画『Beyond Day Zero』や、Kugali MediaのHamid Ibrahimが監督として関わる西アフリカ発のコメディ・ファンタジー・ミュージカル映画『Jollof Wars』などが含まれています。

ニュースの意義

このニュースの本質は、アフリカのコンテンツ産業が、従来の「文化支援」や「助成金」の対象から、商業リターンを狙う投資対象へと一段階進みつつある点にあります。NNAFは、脚本開発にグランドを出すだけではなく、その後の制作段階でエクイティ投資を行うことを前提に案件を育てる仕組みを持っており、アフリカ発の映像作品をIPとして育成していく視点が明確に見えます。

また、今回の初回スレートを見ると、NNAFは単なるローカル作品支援基金ではなく、アフリカ本土のクリエイターと、ディアスポラや海外市場で実績のある人材を組み合わせ、国際市場で売れるIPを作ろうとしていることが分かります。たとえばTrevor Noahは南アフリカ出身で、アメリカの著名政治コメディ番組『The Daily Show』の司会や、グラミー賞の司会も務めてきた世界的なメディア人材です。そうした人物が関わっていることは、NNAFがアフリカ内の物語をローカルに閉じたまま支援するのではなく、最初から国際共同制作・国際流通・世界配信を前提にしたコンテンツ開発ファンドとして設計されていることを示しています。

要するに、このニュースは単に「アフリカに新しいファンドができた」という話ではありません。むしろ、アフリカ発コンテンツを、資金・データ・国際人材ネットワークを使ってグローバル市場向けに産業化する試みが本格的に始まったという意味で重要です。

※『Jollof Wars』は、Disney+の『Iwájú』でも知られるアニメスタジオKugali Mediaが関わる作品であり、Kugali MediaはJAEBCのパートナー企業となっております。ナイジェリアの著名俳優・アーティストであるBanky W、Adesua Etomiらも参加予定と報じられています。

LIVE UPDATE FROM AFRICA

Taste of Japan

文:MAHIRO EBARA

2026年3月7日、ラゴスの Lagos Continental Hotel で、日本食と日本文化を紹介するイベント「Taste of Japan」が開催されました。主催は在ナイジェリア日本国大使館で、会場には約100人が来場。15種類を超える日本産飲料と10ブランド以上の酒類が紹介されたほか、本格的なサーモン寿司や天ぷらを含む日本食の試食も提供されました。

イベントは、鈴木秀生大使と来賓の皆様による灘の日本酒樽の鏡開きで華やかに開幕。飲み物の採点企画や盆踊りタイムなど、参加者を巻き込む催しも用意され、会場は終始アットホームな雰囲気に包まれました。中でも印象的だったのは、漫画コーナーなど多彩な企画がそろう中でも、やはり「食」が会場全体を大いに盛り上げていたことです。美味しいものを共に味わい、飲み交わすことが人と人とを結びつける力は、他のあらゆる文化交流の大切な基盤になりうるのかもしれません。

アフリカに来る2社の紹介

文:鳥居佑輝

Kugali Media

2017年にナイジェリア出身のOlufikayo Adeola、Toluwalakin Olowofoyeku、Hamid Ibrahimがロンドンで共同設立した汎アフリカ・エンターテインメント企業。アフリカの神話・文化・未来像をコミック、AR、アニメーションで世界に届けることをミッションとする。最大の実績はウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオとの共同制作によるSFアニメ『Iwájú』(2024年Disney+配信)。未来のラゴスを舞台にしたこの作品はディズニー・アニメーション初のオリジナル長編シリーズであり、エミー賞3部門ノミネートを獲得。収益はパブリッシング、クリエイティブサービス、IP開発の3事業で構成され、Disney Publishing Worldwideとの児童書ブランド「Kugali Ink」も展開。アフリカン・コミックを「Bonzo」と総称し普及を推進するほか、Kugali Academyを通じたアフリカ人アニメーターの育成にも注力している。

Olufikayo "Ziki" Adeola(Kugali Media 共同創業者/ディレクター)

ラゴス生まれ、ロンドン在住。幼少期にMarvel・DCコミックやドラゴンボールZ、NARUTOに熱中し、City University Londonでクリエイティブ・ライティングを学ぶ。幼馴染のToluとポッドキャスト「Tao of Otaku」(2015年~)を開始し、アフリカのコミック・アニメ文化を発信。2017年にHamid Ibrahimを加えKugali Mediaを正式設立。2019年のBBCインタビューでディズニーに挑戦する姿勢を公言したところ、そのディズニー側から声がかかり、『Iwájú』の脚本・監督を担当。ディズニー・アニメーション史上初の外部スタジオとのコラボ作品を実現した。現在はKugaliのナラティブ・ロスター全体のクリエイティブ・ディレクションを統括しつつ、ゲーム開発にも携わる。

AniWe Convention

2012年頃からナイジェリアで活動するアニメ・ゲーム・テクノロジーのファンコミュニティ兼イベント運営団体。「Home of Otaku in Africa」を掲げ、ラゴスを中心にアニメ上映会、コスプレイベント、ゲーム大会などを定期開催。2024年にはLagos Comic Conにブース出展し、クリエイティブ作品展示やインタラクティブ体験を提供した。物販部門「AniWe Merch」ではONE PIECEや呪術廻戦などの日本アニメグッズをナイジェリア国内で販売するECサイトも運営。大学キャンパス単位のイベントも展開しており、ナイジェリアの若年層におけるアニメ・ポップカルチャー文化の草の根的な拠点として成長中。

Omotanwa Gbadebo氏(Founder / COO, AniWe Convention)

2013年からナイジェリアのアニメ・ポップカルチャーコミュニティ「AniWe」を牽引する創設メンバーの一人。AniWeは、500人超の単独イベントや7都市同時展開の上映・コミュニティ施策を実施するなど、現地アニメファンコミュニティの成長を象徴する存在である。さらに、複数のSNS、WhatsAppコミュニティ、Twitch配信、リアルイベントを横断し、20万人級への波及可能性を持つ成長著しいアニメコミュニティ基盤を有しており、Omotanwa氏はその運営・事業連携を長年主導してきた。Obafemi Awolowo Universityで医学を学び、医師としての経験も有する異色のリーダーである。

TODAY'S VIBES 🎵

文:DJ Aoki

Tiwa Savage がバークリーと拓くアフリカの音楽教育改革

ナイジェリアの Tiwa Savage(ティワ・サヴェージ)が、自身の財団を通じて母校バークリー音楽大学と提携し、2026年4月ラゴスで集中プログラムを開催します。これはアフリカのクリエイティブ産業を法的にもプロフェッショナルな産業へとアップデートする重要な試みです。

Tiwa Savage はグローバルのリアルを知る貴重なアーティストで、彼女は10代でジョージ・マイケルやメアリー・J. ブライジのバックコーラスを経験し、世界のトップスターを支える過酷な現場でプロの規律を学びました。その後渡米しバークリーに入学。卒業後はファンタジアやモニカらへ楽曲提供を行いながらソングライターとしての下積みを経験しました。

今回のプログラムについてTiwaは「才能だけでは不十分。音楽にはビジネスと法律の知識が不可欠」と繰り返し述べています。彼女の財団とバークリーが組むプログラムは、エンターテインメント法、著作権管理、音楽ビジネスを中核に据え、アフリカの優れた才能を守り収益化するためのグローバル基準のインフラ構築を目指し、「未知の才能が眠る地」から「権利が守られビジネスが成長する市場」へと変化させる試みです。

これは米国音楽ビジネスを知るTiwaだからこそ立てられる旗。同様に、日本が新たなマーケットで戦うためには先駆者のナレッジとネットワークに勝るものはありません。アフリカの風にたなびくJAEBCの旗が日本の未来の羅針盤であることを信じています。

今日の1曲

Tiwa Savage ; Tiny Desk (Home) Concert [Youtube]

パンデミック以降、NPRのオフィスを飛び出し撮影された「Home Concert」。西アフリカで初となったTiwaの収録の舞台は、ナイジェリア・ラゴスの文化的聖地ともいうべき歴史的ブックカフェ「The Jazzhole」。仕掛人はNPRの名物プロデューサーAbby O'Neil。Tiwaのバックを支えるAlternate soundのメンバー達が生み出すジャジーなグルーヴに乗り、Tiwaの持ち味であるRnBとAfrobeatsの芳醇なブレンドが楽しめるライブを是非。